第135回・BunDoku読書会

 

日時:2023年8月19日(土)17:00〜18:30

会場:OITA MIDTOWN(イベントスペース)

参加者:10名

 

案内人のチカです。第135回・BunDoku読書会を開催しました。

今回の課題図書は谷崎潤一郎賞受賞の名作、川上弘美の「センセイの鞄」。

十数年ぶりに再会した高校の恩師センセイとツキコさんの、ゆったりと愛を育む日々を描いた物語です。

 

まずは参加者の皆さんの感想から。「季節の移り変わりの描写や表現がきれい」「日本語として初めて聞く言葉があった」「ファンタジーのような夢のようなフワフワした話から現実に引き戻すラスト」「主人公に浮遊感がある」「全部妄想かも」「主人公がセンセイを思う場面に胸がキュンとした」「はたしてこれは恋愛小説なのか?」「自分の中に抱えている子どもと向き合って大人になる成長物語として読んだ」などなど。「センセイにも主人公にもハマらない。せいぜい奥さんに逃げられないように頑張る」という方も(笑)

 

さらに「所々で主人公をカタカナの『ツキコさん』、漢字の『月子』と使い分けているのはなぜだろう?」という疑問が投げかけられました。

 

この小説は主人公であるツキコさんの意識の流れにそって、時空間が自在に行き来する構成になっています。それぞれの場面の様子から、子どもみたいな時や夢うつつの世界にいる時は「ツキコさん」、現実世界と接続している時は「月子」なのかな、そんな風に感じました。

 

また作中には、伊良子清白・松尾芭蕉・内田百閒と、いずれも全国を旅した文学者の名が登場します。若い頃あちこちを旅したらしいセンセイと、どこか繋がる部分があるのかもしれません。

 

様々な意見が交わされましたが、皆さん異口同音に、この齢の差で恋愛は現実には考えにくいよねと仰っていました。

 

ラストについても幅広い解釈がなされました。「センセイを失って、ツキコさんはより孤独なのではないか」「センセイと過ごした時間に影響を受けて、逆に孤独ではないと感じた」「喪失を抱えて生きていくことによって人間の生が豊かになる。それはツキコさんにとっての希望なのではないか」ふむふむ。なるほど。

 

ラスト2行、ツキコさんは「からっぽの」「何もない」「ただ儚々とした空間」を、目を背けずに真っ直ぐに見ています。それが、センセイを失った喪失と真正面から向き合っている姿だとすれば、ツキコさんは人として確実に強くなっていると思います。

 

孤独と心細さで時には泣いていたツキコさんが、喪失と悲しみを丸ごと抱えたまま、センセイと過ごした時間を糧にして、センセイの気配を感じながら豊かに日々を営んでいる。フワフワしていた「ツキコさん」が、地に足のついた「月子」として、確かに成長しています。

 

そして、常に持ち歩いていた鞄を、わざわざ一筆書いてまでツキコさんに遺したセンセイ。鞄の中には、センセイ自身の哀しみや希望が詰まっていたのかもしれません。自分の分身のような大事な鞄を、ツキコさんに持っていてもらいたかったのかもしれませんね。

 

「おセンチ」な妄想は尽きませんが、深い余韻を残すラストが切なくて、やっぱり泣きたい気持ちになるのでした。

 

さて、次回BunDokuは日程などがまだ未定です。告知は今しばらくお待ちくださいませ。また皆さんにお目にかかれる日を楽しみにしています。楽しい時間をありがとうございました。